2021 年の第 18 回ショパン国際ピアノ・コンクールにおいて、第 2 位およびクリスチャン・ツィメルマン賞(ソナタ最優秀演奏賞)を受賞されたピアニスト、アレクサンダー・ガジェヴさんのコンサートを聴きました。
https://flowfussy.com/events/3b20155cbeee

しかも最前列です。
https://flowfussy.com/events/72fd23a7188b 

このような貴重な機会を御用意くださった FLOW フッシーの会に感謝すると共に、どのような体験であったかを振り返ってみようと思います。

会場の様子

会場のサローネ・リリコ馬車道には、初めて伺いました。ホールに入って最初に感じた事は、小さい!    小学校の教室くらいの広さです。その小さな部屋の前方 3 分の 1 くらいのスペースに鎮座するスタインウェイ。美しいピアノです。

ピアノの隣、最前列に3席だけ並んでいる椅子が私の席でした。手を伸ばせばピアノに触れそうなほどの距離です。

何より特別な事は目線の高さ。コンサートホールで1列目の席に座っても、楽器は舞台の上にあり、聴衆の目線は演奏者の足元と同じ高さです。ピアニストの手首は見えても指までは見えません。今回は違いました。座席とピアノが同じフロアにあるので、ピアニストの指先を俯瞰で見下ろす事ができます。なんとも贅沢な体験でした。

演奏曲

ラフマニノフ『パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43』を弾いて下さいました。オーケストラ・パートをピアノが奏でる、2 台の連弾にて。

演奏が始まって

演奏が始まって先ず驚いた事は、水滴が跳ね転がっていくような鮮明な音。

生まれたての音だ、と思いました。

左の耳からガジェヴさんの音が、右の耳から片田さんの音が、混じり気なしに私に届いて、私の耳の中でようやく混じり合ってハーモニーを奏でます。新鮮な経験でした。

これが大きなホールだと聴こえ方が変わります。音は反響しつつも、客席を通る間に吸音されて角が取れ、予め混じり合ったハーモニーとして耳に届きます。だからコンサートホールでは最前列よりも中央の席が一番いいんだよ、と教えてくれたのは、大学時代に片思いだった音大生の子でした。

指使い

演奏中ずっと、細くて長い綺麗な指だなぁ、と思いながら聴いていました。一曲のうち半分以上は、鍵盤の奥の方を弾いていたと思います。あんなに鍵盤の一番奥の方を弾いたら鍵盤は重たくないのですか?    柔らかく脱力しているように見える長い指の、どこにそんなパワーが潜んでいるのでしょうか。

指先を見つめながら一曲を聴いているうち、力強く鮮明な音を出したい時は鍵盤の手前側を弾いておられるとか、奥側を弾く時は指を伸ばして、手前側を弾く時は猫の手になっている、という事も見えてきて、面白かったです。

足元

足元も良く見えました。1 cm も踏まない繊細なペダルワーク。正確にペダルを踏む為に、どんな靴を履いているんだろう?    良く手入れされている革靴だな。オーダーメイドだろうか?    靴底はどうなっているのだろう?    擦り減る前に靴底だけ張り替えるのだろうか?

つい靴に目が行ってしまいました。

息づかい

最前列ゆえに、音楽だけでなく、演奏者の息づかいまでが鮮明に聴こえてきました。集中するかのように大きく息を吸ってから始まる、繊細な音。力強く息を吐いた後に続く、力強い低音。

演奏者の息づかいが聞こえる度に、聴いている私も背筋が伸びて、集中のスイッチが入ります。

アンコール

アンコールはショパン『24 のプレリュード』でした。最後は、左手の親指でドーン。次は左手の中指でドーン。最後に左手の親指でドーン。からの親指グリグリグリグリ。

あの最後のグリグリで一体どんな音色を生み出しているのか。グリグリする時としない時で何が変わるのか。気になって Youtube で演奏動画を幾つか観てみたのですが、誰もグリグリしていない。余計にグリグリの効果が気になって、夜しか眠れません。

次回の Piano Flow、グリグリ部分だけ弾き比べに行っても良いでしょうか?

疑問:演奏のターゲットは?

ふと疑問に思いました。テレビで観るショパン・コンクールの審査員たちは皆さん、大きなホールの中央付近に座っておられます。という事は、演奏者が聴いている生まれたての音と、審査員の皆さんに届く音とでは、聴こえ方が違うはずなのです。

演奏者は、審査員席でこういう音が聴こえているはずだ、という事を逆算して、手元の音を奏でているのでしょうか?    それとも自分が良いと思う音色を手元で奏でれば、聴こえ方が多少は違っても、審査員の皆さんにも良い音色が届くのでしょうか?

最後に

またとない貴重な経験をさせて頂きました。楽しい時間でした。ありがとうございました。