スーパー歌舞伎『もののけ姫』を観劇しました。

概要

素晴らしい芝居でした。10年に1度の傑作と言っても良い。

原作のある作品はどうしても、原作の方が良かった、という感想がついて回る事が多いものです。まして国民的な大ヒット映画『もののけ姫』です。しかしスーパー歌舞伎『もののけ姫』は、原作の魅力を損なう事なく、生の舞台ゆえにダイレクトに伝わる役者さん達の感情が、映画とは異なる新たな魅力をもたらしていました。

芝居が素晴らしく、また裏方さん達の仕事が素晴らしい。傑作でした。

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市川團子

主役のアシタカ役です。久しぶりに拝見しましたが、衣装を着ていても分かる筋肉質な体型。胸板が厚い細マッチョな好青年になっていました。アシタカが似合いすぎる。

曇りなき眼で見よ。誰に肩入れするでも無く中立的な立場を貫く難しい役を、演じきったと思います。

そしてシシ神役との二役、早変わり。歌舞伎の早変わりは通常、顔の化粧までは変えませんが今回は早変わりの度に化粧が変わります。しかもシシ神の感情に応じて赤い隈取と青い隈取の2パターン。一体いつ変わったのかと驚愕の早さです。しかも早変わりのドタバタを感じさせず、シシ神役は静謐で神秘的。

澤瀉屋を背負うに相応しい役者だと思いました。

市川中車

歌舞伎において猪の役は、台詞すら貰えない下っ端がやるものと相場が決まっているのですが、今回セオリーを打ち破って、序盤の祟り神になったナゴの神と、終盤で祟り神になる乙事主の二役。

驚いた事に歌舞伎の所作が年々、少しずつ上手くなっています。アラフィフで梨園の世界に飛び込んで、今もう還暦を超えて、それでも少しずつ芸が上達している。その裏で一体どれだけの努力をしておられるのでしょう。頭が下がります。

市川笑三郎

山犬の神モロを演じました。美輪明宏さんの声の印象が強烈で、最も演じるのが難しい役だったと思います。美和さんに引っ張られ過ぎず、さりとて原作のイメージを損なう事なく、誇り高く、そして厳しさと愛の混じり合う山犬の神を見事に演じておられました。

中村壱太郎

もう1人の主役サンを演じました。作品を通じ、どう生きるかという価値観が揺れ動く難しい役を、見事に演じておられました。

今回は歌舞伎とは思えないド派手な殺陣が続きます。それを引っ張ったのは間違いなくサンでした。たたら場に潜入する場面で、高さ10メートルくらいから飛び降りた時は、ビックリしました。

もののけ達

山犬モロの息子達を演じた市川段一郎、市川翔乃亮の鋭い芝居。猪を演じた若手の皆さんの奮闘。そして何よりヤックルが可愛すぎました。

猿の妖怪である猩々達は不気味で恐ろしく、猩々の翁を演じた市川寿猿丈は96歳とは思えぬ素晴らしい存在感。台詞も聞き取りやすく、しっかりした足取りで花道を退場された光景は忘れられません。

舞台セット

舞台上の幕には森が描かれ、側面には木陰、そしてスピーカーからは鳥のさえずりが聞こえます。開演前から作品の世界に没入できる素晴らしい工夫でした。舞台セットは素晴らしく、苔むす白谷雲水峡の森の光景が目に浮かぶようでした。そのセットを照らす照明が、また素晴らしい。

場面転換も速やかで、場面の転換中も暗転して芝居が止まるような事は無く、いったん幕を降ろして幕の前で、あるいは花道の上で芝居が続きます。

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少し残念だった事

今回はスーパー歌舞伎の新作との事で、市川猿翁丈がスーパー歌舞伎を始めてから40周年、猿翁丈の最後の作品が2003年の『新・三国志2』なので23年ぶりの新作と宣伝されています。

2014年からスーパー歌舞伎2という素晴らしい作品群があったのですが、その名前を言ってはいけない事になっているようです。残念でなりません。そういう空気があるとは言っても、素晴らしいものは素晴らしい。スーパー歌舞伎2は素晴らしかったし、市川猿之助丈は素晴らしかった。もし機会が得られるなら、また猿之助丈の芝居を観たいと思います。