日本経済の現状を取り巻く構造的課題を概観できる一冊。とくに、アベノミクスと呼ばれた金融緩和が進められた10年間の結果と、企業が利潤を労働者の賃金上昇に反映せずに自社株買いや海外投資といった株主資本ばかりが膨らんだ格差拡大の構造を分かりやすく説明している。

2000年代の構造不況から日本の企業生産性は30%も向上しているが、賃金水準は横ばい傾向であり、近年のインフレ基調から実質賃金はマイナスに陥っている。いわばこの収奪的システムが日本のマクロ経済を形成し、アベノミクスの金融緩和が成長戦略へと結びつかなかった原因となっている。そのため消費に回る可処分所得が減少するスパイラルに突入し、それらがアンチ・エスタブリッシュメントを叫ぶポピュリズム政党の跳梁を招いている。

とくにイノベーションのような技術革新・構造転換は収奪的性格を帯びており、包摂的な社会保障や雇用維持の仕組みとセットにすることが求められる。一方で経営者は短期的な株価上昇や配当維持といった成果を求められ、働き方改革やコーポレートガバナンスといった制約の増大によって企業業績の向上が労働者には反映されなくなっている。労働という価値が目減りする時代において、果たして個人はどのような対抗策を採っていけば良いのだろうか。