例年この時期には早めの休暇をとって(自営業の特権)海外に行くのですが、今年は韓国ソウルに行ってきました。人生2回目のソウルで、実は今年夏は釜山にも行っていたので1年に2回も渡韓しています。国内線感覚で行ける距離感と費用感が気に入ってます。とはいえ円安の影響で食事や宿泊は日本に比べても割高な印象でした。

今回は観光目的というよりは、日本と韓国の文化的差異を実体験することで見聞を広めるといった趣旨で、とくに韓国ドラマやウェブトゥーンなどに代表されるコンテンツ制作の在り方を分析する上でその前提となる出版文化の状況を見て回りました。

雑誌と文庫が少ない、韓国の書店

韓国の書店に行くと、かなりたくさんの単行本がところ狭しと並べられています。都心部の書店ではAIや投資といったビジネス関連のタイトルも目立ち、また学習参考書が数多く販売されているのも印象的でした。文芸書もさまざまなバラエティに富んでいて、著者や歴史上の人物といった顔写真付きで売られています。

IMG_3354.jpeg 3.26 MB一方で日本の書店にある文庫やコミック、雑誌のような手軽に読める書籍はあまり置いてありません。この辺りの需要は日本に先んじて電子書籍に代替されてしまった感もあり、むしろ紙の書籍は装丁がしっかりとしていてさらにラミネート加工など、保存用・推し活用といった用途が強化されているように思いました。

IMG_3355.jpeg 3.4 MB良く見ると日本の作家の書籍も翻訳されているみたいで、太宰治や宮沢賢治、村上春樹に至るまでベストセラーは海を渡っても人気のようです。この辺は青空文庫化されて著作権フリーになった作品を中心に、出版レーベル化されているようですね。

出版社と直取引が多い書店の事情

韓国では、日本のように大手取次が卸に入って出版社と書店の間をやり取りするといった商習慣が主流ではなく、日本では当たり前の雑誌と書籍の一括流通や書籍の定価を維持する再販制度といった仕組みが存在しません。出版社と書店は直接取引するところが大半であり、そのため書籍の価格が下落して1980年に図書定価制という、一定期間は定価を保持する制度が導入された経緯があります。

そのため出版社が新人作家や漫画家に先行投資して育てるという資本的・キャッシュフロー的余裕があまりなく、日本と比べるとすでに他の分野で有名になっているインフルエンサーの書籍が多かったり、一定の需要が見込める貸本向けの漫画が主流といったコンテンツ文化的差異があります。

IMG_3353.jpeg 4.05 MB書店では著者別・ジャンル別というよりは出版社別・レーベル別のような陳列が目立っています。無人レジやキャッシュレスの導入は日本よりも進んでいる印象があります。

IMG_3356.jpeg 3.78 MB韓国でも人気があるのは日本の漫画です。とくに雑誌掲載⇒ある程度話数がまとまったらコミックスにという出版システムは韓国には存在しないため、日本のように長期連載しているシリーズはあまりありません。ウェブトゥーンのように一話のなかに山場とオチがある展開が好まれ、そのため早い段階からスマホ画面に最適化されたコンテンツ制作が進められました。

韓国で頑張っている独立系書店

韓国ではスマホ登場以前には貸本屋さんが数多くあり、その流れから独立系書店を営む店舗もたくさんあります。前述したように出版社との直取引が主流のため、書籍だけではなく文具やガジェットなどと一緒に販売されているところや、貸本図書館とセットになっているところなど様々な個性がみられます。

IMG_3346.jpeg 3.84 MB独立系書店の老舗「サンクスブックス」。学生街の商店街の一角で長く営業しており、デザイン系の書籍が多かったです。デザイン本に関連した小物も売られており、ちょっとしたセレクトショップ的な雰囲気で若い人に人気のようです。

IMG_3340.jpeg 3.52 MB駅近くにはカフェと図書館、書店が混在となったお店が立地しています。そこでは老若男女がゆったりと滞在しながら作業したり読書したり、ときどきイベントなども開催されているようです。こちらは日本でいう蔦屋書店のような雰囲気です。

IMG_3341.jpeg 3.55 MB紙の書籍の貸本サービスも健在で、会員になると場所と貸本が利用できるサブスクサービスがメインとなっています。こちらは韓国のSIM電話番号がないと登録できないため、観光客は利用できませんでした。

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ヨギボーのようなゆったりできるスペースもあり、リラックスできる空間が日本に比べてもたくさんあると感じます。日本の都市部のようにカフェが激混みになるような感じもなく、学生の自習などは主にこういった施設の貸本図書館でやっている感じでした。

IMG_3358.jpeg 3.33 MB個人的に気になっていた猫が邪魔する本屋「YOUR−MIND」、古い邸宅をリノベしてファッションや撮影スタジオなどとともに入居しています。残念ながら猫店員は不在でしたが、猫に関する書籍や小物が数多く並べられており、日本のグッズなどもありました。

IMG_3361.jpeg 3.6 MB漢江に浮かぶノドゥル島にあるブックカフェ「ノドゥル書架」は一番好みでした。ソウル駅からバスで一本で来れるのに、島の自然環境とのんびりした雰囲気が体験できて一日居れる感じでした。

観光コンテンツ化される韓国の書店

すでに韓国では大型ショッピングモールに、この私設図書館兼書店が入るのが一般的になってきています。スターフィールドという近年人気のモールでは、天井まで伸びた本棚が特徴的な書店を相次いでオープンさせており、家族連れやカップルで賑わっています。日本でも蔦屋書店が一部の店舗でこのような陳列を始めていますね。

depositphotos173608390xl-1720575893969.jpg 221.59 KB韓国では日本と比べて既存の出版システムが強固ではなく、取次による再販制度やみなし配本といった街の書店を制約する仕組みが存在しませんでした。そのため1980年代の段階でいったん価格破壊のような状況が起こり、体力のない中小出版社や書店は閉業したという歴史的経緯があります。

そこからデジタル時代の到来に伴って、流通や体験価値の増大を企図した様々なビジネス形態が日本にも先駆けて生まれてきている印象があります。今回は行かなかったのですが、チムジルバン(大型温浴サウナ施設)と私設図書館を組み合わせた場所などもあるみたいです。

一方で競争が激しすぎるために新人発掘や長い目で育てるといった文化は希薄であり、そのために日本に比べても作家の質や層は薄いという問題点もあります。むしろ日本の作家には韓国市場に進出するチャンスがあるとも考えられ、最初から翻訳を意識した書き方をするのもアリなのではないかと感じました。